
わたしは、今回の朝ドラ「あんぱん」を、できるだけ観ています。
ドラマは今、太平洋戦争中で、大変苦しくつらい朝が続いています。
今年は、終戦80周年ですね。
80年前の今頃は、都市部はもう焼け野原で、いよいよ沖縄が占領下に…というところです。
80年前に終わったこの戦争ですが、
戦後数十年してから生まれたわたしたちもこの戦争の影響を受けていると
考えたことってありますか?
わたしが学生だった頃、
「アダルトチルドレン」「家庭内暴力」「虐待」
「アルコール依存症」「共依存」といったワードが
社会面を賑わせていたように思います。
これらは、戦争から帰ってきた方を親として育てられた世代が
自らの家庭を築いていく中で「困りごと」として表面に出てきました。
これらの現象には、実は戦争トラウマが影響しているということが、
今になってようやく認識されるようになりました。
戦争トラウマという認識が始まったのは、
ベトナム戦争がきっかけです。
ベトナム戦争から帰ってきたアメリカ軍の兵士たちの中には、
日常生活にうまく適応できなくて
不眠、アルコールや薬物中毒、感情のコントロール不良、
犯罪行為、家庭内暴力、性暴力、ときには自殺や殺人というような状態や行動に至るケースが多く、
そこで初めてこれらはトラウマ反応であり戦争によるストレスとの関連が認められ
PTSD(心的外傷後ストレス症候群)という病名が生まれました。
日本でも、太平洋戦争のあと、
覚せい剤や粗悪な焼酎が大量に出回ったといいますよね。
しかし、そのころは戦争トラウマという概念はなく、
依存症や暴力行為というようなかたちで戦争トラウマの反応が出たみなさんを
治療したり援助したりということはなかったようです。
戦時中「戦争神経症」と診断された方は約1万人いて、軍の病院で治療を受けていましたが、
国は、このような精神疾患を発症した方々を「皇軍の恥」と、ひた隠しにしていたようです。
精神疾患が「恥」とされていた時代ですし、
暴力行為や人格の変化などは世間に知られたくなかったかもしれません。
これらのトラウマ反応は家庭内でこっそりと隠されて
当時は社会的に問題とされなかったのではないでしょうか。
日本は、住んでいる土地も戦禍に見舞われていますし、
従軍していなかった人たちも戦争体験のトラウマや被害体験の影響があったと想像しています。
「あんぱん」のみなさんの今後が
どのように描かれていくのでしょうか…。
戦争トラウマを抱えた家族がいる家庭で育った方には
こころ健やかに成長することが難しかった方がおられます。
そういった安全でなくて安心できない状況で育つと
じぶんが結婚して家族をもったときに
暴力行為や依存症など家族を脅かす言動が連鎖することがあって、
そこで育った子どももまた、成人後も生きづらさを抱えることがあります。
わたしたちも何かしら戦争の影響を受けて育っている可能性があるのです。
こういった歴史的背景があるので、
「妊活しているけど、子育て大丈夫かな?」
「あたたかい家庭を築きたいけど、できるかな?」
と、気がかりをお持ちの方もいらっしゃって当然だと思います。
これは個人の問題では終わらないことだと思っています。
その中でも、「もう少し生きやすくなりたい」
「もう少し自分を信頼したい」
「母親になる自信が欲しい」
そういったお一人おひとりの想いを大切にしていきたいなと思っています。
もしよかったら、今まで背負ってきた荷物を、一旦整理してみませんか?
必要な荷物は、自分にとってどのように必要なのか、理解しておきましょう。
知らないうちに背負ってしまっていた下ろせる荷物もあるかもしれません。
<参照>信田さよ子著「タフラブ 絆を手放す生き方」 株式会社dZERO
「連載『戦争トラウマ 連鎖する傷』」 朝日新聞
「戦跡―薄れる記憶-AFTER THE WAR」 NHK
臨床心理士・公認心理師 間塚